『アナと雪の女王2』が大ヒットを続けています。前作の『アナと雪の女王』が上映された時には映画とともに劇中歌の「Let It Go」も大ヒットし、同曲は暮れの紅白歌合戦で3回も歌われる異例の扱いとなりました。
さて、その「Let It Go」。日本語歌詞のものを聴くと非常に前向きな印象を受けます。しかし映画の中で王女エルサによって歌われたのは、自らの特異能力を暴発させて国民に怖れられ、たまらずに城を飛び出た場面でした。特異能力ゆえ城の一室に閉じこもっていたエルサは、そこを出て自ら建立した氷の宮殿の中で絶唱するのです。「Let It Go(放っておいて。忘れて)」と。力強い日本語歌詞とは裏腹に、他者との関わりを諦めた悲痛の叫びのように聞こえます。「少しも寒くないわ」のなんと寒々と響くこと。
あらためて英語の原詞を確認しますと、やはり日本語詞とはニュアンスが違います。城を出ざるをえなかった悲しみとそれを無理やり振り切ろうとする痛々しさが綴られています。日本版スタッフはそれらをあえて切り捨てて、積極面のみ強調したのです。「Let It Go」を「ありのまま」としたのは見事な超訳ですが、もしこの訳がなければあの歌があれほど大ヒットすることはなかったと想像できます。
異文化間で翻訳作業がなされるとき、ニュアンスがずれてしまうことは少なくありません。場合によっては意図的に誤訳することもありえます。受け取ったメッセージが翻訳や伝聞であったときは、まず原文にあたってみる習慣は大切に思います。異文化間だけではなく、同文化内においても。
(アーユス)