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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2025/08/01

【8月】今を「戦前」にしないために・・・


 この8月で、日本はちょうど戦後80年となります。終戦時に生まれた子どもが傘寿。戦中の記憶をお持ちの方は多くが亡くなられてしまいました。その方々が残してくださった体験談は決して多くはありません。それらの体験談は繰り返し読み返し、読みついでいく必要と責任が私たちにはあります。

 そして、語られることのなかった事実にもあらためて思いを馳せます。語られていない、あるいは記録に残っていないのをいいことに、都合よく無きことにしたり改竄をしたりする動きはいつの時代も存在します。それに抗うためには、事実への学びと想像力の両者が必須と思われます。

 以前に、原爆投下直後の広島での看護体験がある方のお葬式へ伺いました。喪主である娘さんは平和や人権をテーマにした市民活動に長く関わっていらっしゃったのですが、自分の母親が昔は看護師だったことはご存知でも、原爆被災者の看護をした経験があったことは全く聞かされていませんでした。話してくれなかった理由は定かではありません。想像ですが、あまりに悲惨でとても話せるようなものではない。話しても絶対に伝わらない。思い出すことさえつらい。そんな気持ちだったのでしょうか。

 娘さんが母親の体験の一端を知ったのは、亡くなるわずか1年前のことでした。語られた言葉は少なかったそうですが、人間が壊されてしまった有り様、それを前にして何もする術がない看護師の自分、70年以上も胸の奥で疼いていたその様相に、母はずっと嘖まれていたことが伝わったそうです。

 語られたことも私たちは充分に聞きえていないと思います。さらに、語られたことだけがすべてではないとも知っておきましょう。語りえなかったことに思いを馳せる。加えて今、声にならない声が上がっているにもかかわらず、耳を閉ざしている自分ではないでしょうか。声を拾う作業は辛いものにもなりますが、今を「戦前」にしないためにも・・・。(アーユス)