今年のノーベル賞。平和賞に選ばれたのは日本の団体、「日本原水爆被害者団体協議会(被団協)」でした。広島や長崎で被爆した人たちで組織された団体で、結成は1956年。その2年前に起きた第五福竜丸事件への抗議行動の高まりの中での出発でした。
以来68年間にわたり核廃絶を世界に訴える活動を重ねてきた被団協への今年の受賞は、「遅かったが納得」です。
「遅い」というのは、当事者の多くが亡くなっているということ。被団協の代表を長く務め、2016年に広島でオバマ大統領と握手を交わした坪井直氏が亡くなって3年になります。
しかし納得です。それは選考委員会のコメントに表れています。「日本被団協の努力によって核のタブーは定着してきた」「一方、核保有国は核兵器の近代化を進め、核兵器の保有を準備しているようにみられる」。被団協への授与からは、現在進行中の紛争で核兵器の使用が危惧される現在への、明確で強固な反対意思を読みとらずにはいられません。
また、ノーベル文学賞では韓国のハン・ガンさんが受賞しました。こちらは「早いけれど納得」でしょうか。
韓国人の文学賞は初めてで、アジアの女性としても初です。ハン・ガン氏の作品はすでに国際的な評価は高く、いずれノーベル賞を取るだろうとも言われていたのですが、まだ53歳ということもあり、今年に受賞するとはファンの人さえも全く予想していなかったようです。早い受賞。
しかし納得です。ハン・ガン氏の作品は、光州事件や済州島での弾圧事件など現実の歴史を背景にしながら、生身の人間の深く鋭い痛みと、そこからの回復を示し、普遍的な高みに達します。翻訳者の斉藤真理子さんは「ハン・ガンの仕事の核は、これほど悲惨なことがあったと知らせることではない。最大の危機のときもこのようにして人の尊厳は存在しうるのだと示すことである」とし、韓国文学の結晶と評します。そんなハン・ガン氏は、受賞後の会見を開いていません。「ウクライナやガザの悲惨な状況が続いている中で何を祝うのか」という当人の意向が報じられています。それも納得です。
被団協とハン・ガン氏への受賞により、今年もノーベル賞の権威は保たれました。賞の価値は、誰に与えられたかで担保されるものです。さて、今年のアーユス賞、もうすぐ発表になります。ご期待ください。(アーユス)