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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2024/09/26

【9月】透明化されてきたこと。今も透明なこと。


 毎朝、いろいろな立場の人に共感の涙を流させたドラマ、NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』が9月末に最終回を迎えます。
 日本最初の女性弁護士・判事・家庭裁判所所長となった三淵嘉子氏の人生を題材としていますが、忠実な伝記作品ではなく、真の主役は日本国憲法第十四条でした。
 ドラマの初回、三淵氏をモデルとした寅子が新聞記事により日本国憲法第十四条に出あいます。「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」という条文は、現代においてなお新鮮かつ普遍に響き、現実を問い続けていることを考えさせられた半年間でした。
 作品内では、現代に進行中の課題が多く盛り込まれました。LGBTQ、夫婦別姓、女性の就労、民族差別、生理、など。現代の課題を過去の物語に押し込んだわけではありません。これらはいずれも過去に厳然と存在していた課題だと、当作品の脚本を担当した吉田恵理香氏は言います。ただ「透明」にされていたのだと。ある規範や価値観から外れている人は、いつの時代にも存在していました。それによって理不尽な苦を負わされていた人びとはいました。にもかかわらず、「透明な存在」として、いないことにされていたのだと。その指摘はそのまま、現代をも射程に入れています。
 過去に存在した課題が、古びずに今の課題となっていることに、忸怩たる思いを抱かずにはいられません。しかし一方で、透明な存在へ色を付けてきた人びとがあって課題化できたことに希望を見ます。その役目の一翼を担ってきたのがNGOだったのは確かでしょう。さらに今、未だ透明にされている存在に思いを向けるのもNGOの役目だと思うのです。
 前記のテーマ以外にも、女性差別、家父長制、尊属殺人、戦争犯罪、少年犯罪などに本作品は切り込みました。作品中についそれらへの答えまで求めてしまいがちですが、それは視聴者の怠慢でしょう。作者の仕事は、透明な課題に色を差し、こちらへ投げるまで。投げかけられたボールをどう打ち返すか。あるいは見逃すのか。はたまた、ボールをまた透明にしてしまうか。私に問われています。放送は終了しても、現実の中でドラマは続きます。(アーユス)