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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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その他の地域2020/04/16

軍事力によらずに、平和はつくれる


軍事力によらずに、平和はつくれる
 − 核のない世界をめざして。宗教者に期待を寄せる

reliouscampaingleaflet ある国が防衛のために軍備を増強し、核兵器を持つ。それは他の国家にも同じように軍備増強を促すというジレンマを生み出します。冷戦時代、東西両陣営が対立していた頃は、まさに軍拡競争が最高潮に達した時。しかし冷戦が終わって 30年近く経つ今でも、ジレンマは続いています。その代表格が、朝鮮半島情勢。南北朝鮮の対立/分断の背景には、アメリカが関与した朝鮮戦争があり、まだ終結もしていません。そして日本が、北東アジアでアメリカが広げている核の傘の下にいることも、忘れてはなりません。
「あなたが武器をすてるのであれば、私も捨てます」という精神を広げるためには、何が必要で何ができるのか。今回は、核兵器廃絶と軍事力に頼らない安全保障を目指して活動を続けている「ピースデポ」の湯浅一郎代表による講演の抜粋をお届けします。互いに武器を捨てることへの一歩を踏み出すのは難しいですが、特に北東アジアから核兵器をなくすためには、日本にいる私たちも動かないといけません。 そこには、宗教者の協力も求められています。


■アメリカの情報公開 は実は進んでいる

 アメリカの情報公開法はおそらく世界で一番進んでいます。政府が持っている情報は一般公衆のものである、と いうのが基本思想です。市民は政府機関が持っているすべての文書を見る権利があり、日本人のような外国人でも艦船の航海日誌の閲覧を請求することができます。非公開文書にする場合は、アメリカ政府が示す理由に我々が納得してはじめて、出さないことになります。
 核兵器保有国が持っている核弾頭についての情報は、アメリカ以外の他の政府はほとんど発表してきませんでした。しかし、論文や政府資料などを集めて分析すれば、各国の核戦力や核兵器政策の実態がみえてきます。日本では外務省ですら把握していないことが 多く、ピースデポはアメリカの情報公法などを使いながら様々な文献を集めて、97年から『核兵器・核実験モニター』にて、地球上の核弾頭全データを掲載するようになりました。
 いま国連の安全保障理事会の常任理事国米ロ英仏中に加えて、核不拡散条約に加盟していないインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮という9カ国が核兵器を持っていると推測されています。
 1945年、アメリカが核兵器を6発作ったことから始まり、1986年頃には7万発弱にまで増えました。50年代、60年代はアメリカと旧ソ連が相互に核軍拡を進めたために、約40年で6発が7万発になったわけです。そして1989年のベルリンの壁の崩壊から30年のうちに、1万5千発にまで減りました(その内93.4%がアメリカ とロシアが保有)。

■未だに続く 安全保障ジレンマ

 軍事力による安全保障ジレンマという考え方があります。自分の安全を保障するために「防衛力」という名で軍事力を整備すると、相互不信が核兵器をふくめた軍拡競争を生み出し、それが不信を増幅させるという悪循環が続くことです。軍事力による安全保障ジレンマそのものの姿が、核弾頭の経年変化に示されているのではないでしょうか。
 ジレンマを今も象徴しているのが未だに分断されたままの朝鮮半島。1950年に勃発した朝鮮戦争は53年に停戦協定が結ばれましたが、今も終結していません。38度線という非武装地帯は、まさにこの戦争が終わっていないことの表れです。ヨーロッパでは1989年から90年にかけて、ベルリンの壁崩壊を機に冷戦が終わり、そしてEUや欧州安全保障協力機構(OSCE)ができましたが、30年たつ今も、北東アジアでは冷戦構造が残ったままです。
 私たちが最近重視している政策提案は、北東アジア非核兵器地帯構想です。具体的には、日本、韓国、北朝鮮の3国が核兵器の開発製造を禁止して非核兵器地帯を形成し、周りのアメリカ・中国・ロシアの3カ国が、それらの国々に対して核兵器による威嚇や攻 撃をしないことを保証するものです。
 既に日本には非核三原則があり、南北朝鮮には92年の朝鮮半島非核化共同宣言というものがあり、新しいものでは 2018年の板門店宣言に、それに匹敵する前提が既にあります。ピースデポは1996年に、これを提案しました。
 実は、南半球はほぼ100%非核兵器地帯です。北半球には、中央アジアなど、旧ソ連の核実験場があった地域を中心に非核兵器地帯があり、北東アジアにも非核兵器地帯をつくることは荒唐無稽ではありません。
 私たちは、北東アジアを非核兵器地帯にするための鍵となる人たちをつなぐ仕事を進めてきました。北朝鮮の人と接触するのは難しいので、まずは韓国のNGOと連携して核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議を中心に、毎年のように北東アジア非核兵器地帯をテーマにしたワークショップを行ってきました。  日本国内での世論を高める上では、まず自治体に働きかけました。日本の自治体のうちほぼ90%が非核宣言を掲げているため、とても大きな力になると思ったからです。自治体首長の署名を2009年から集め始めて、ようやく564筆くらいになりました。
 それをさらに広げようと2014年頃から始めたのが、「北東アジア非核兵器地帯の設立を求める宗教者キャンペーン」。仏教にもキリスト教にも、日韓のネットワークがあることがわかり、宗教界の皆さんに声をあげてもらうことに意味があると考えたからです。2016年2月に、署名を集める活動を始めました。
 3年経ちましたが、広がらずにいます。要請のポイントは、日本が核の傘に依存することをやめることに絞ったものです。北東アジア非核兵器地帯ができれば、日本の安全も確保しながら核の傘から出るのが可能になるため、核兵器禁止条約にも署名し批准できるようになるでしょう。しかし、いまの日本政府はアメリカの核の傘依存を止めることを頑として受け付けません。

■変わる朝鮮半島の 非核化への動き

 2018年4月27日の板門店宣言、6月12日の米朝共同声明というふたつの首脳合意により、朝鮮半島の完全な非核化を目指し、朝鮮戦争の終結に向かう目標が合意されました。それを実現するためにはアメリカをはじめ周辺国の同意が必要となります。私たちが96年に北東アジア非核兵器地帯をつくることが北東アジアの平和へのスタートになるだろうと言っていたことが、いま政府間のテーブルの上に置かれるようになりました。環境は一気に変わったと思います。実現すれば、朝鮮半島ないし北東アジアの非核化を通じて、グローバルな核なき世界に向けての大きな飛躍をもたらす可能性が生まれることは間違いないでしょう。
 南北首脳会談で出された板門店宣言では、これ以上朝鮮半島を戦場にしないということを南北が合意したというのが一番大きいと思います。その上で、朝鮮半島を非核化することが合意されました。これは北朝鮮だけの非核化ではないということを、日本の市民は認識しなければなりません。
 朝鮮半島の完全な非核化を実現させるためには、朝鮮半島非核兵器地帯条約をつくるということに行き着きます。そのためには北朝鮮が核を放棄し、アメリカは米朝共同声明にあったように安全を保障しないといけません。また、韓国がアメリカの核の傘に依存することをやめるのも必須です。 そして、米中露の消極的安全保証を加えて、5か国が非核兵器地帯をつくることに努めないといけません。
 日本も無関係ではありません。在日米軍をそのままにして5か国で条約をつくっても、それでほんとうに安全でしょうか。日米同盟や日本の核武装への懸念を含めて考えると、日本も入って6か国で北東アジア非核兵器地帯に取り組むことが求められています。
 この間、5月以来、短距離弾道ミサイルの発射実験が断続的に行なわれるなど、せっかくの合意が揺るがされるかと懸念することもおきましたが、私たちにできるのは、米朝共同声明と板門店宣言に常に立ち戻ろうと声をあげることです。安全が保証されるためには、まずは信頼醸成が必要ですが、経済制裁のような敵視政策がある限り信頼醸成は難しいです。非核化を実現させるためには、アメリカなど当事国、周辺国の市民社会が、合意の履行がどうなっているかを監視し、市民社会に 伝え続けていかなければなりません。
 そこでピースでデポは、昨年の11月に「非核化合意履行監視プロジェクト*」を始めました。カナダや韓国のメンバーにも参加してもらい、英語、韓国語といった日本語以外の言語でも発 信しています。

■宗教者の協力を

 アーユスに協力を求めたいのは、宗教者キャンペーンの署名数をとにかく増やすことです。まだ160人くらいにとどまっています。まず2020年4~5月にNPT再検討会議が開かれるので、その際に国連本部に対して日本の宗教者の声を届けるために協力をお願いします。
 北朝鮮はこの間、短距離弾道ミサイルを発射したものの、米朝共同声明を守り、核放棄を約束しています。この事実に対して、私たちは経済制裁の緩和を求める声を作る必要があります。ピースデポは、国連の安全保障理事国17か国に対し、日本、韓国、アメリカの市民からファクシミリを送って、経済制裁の段階的な緩和を検討し、とくに人道的支援はやるべきという声を送る活動ができないかなと考えています。そういう際にも、ぜひとも宗教者のみなさんにご協力いただきたいと思っています。
 状況は簡単に変わるわけではありません。しかし、2018年に結ばれた2つの首脳合意には重いものがありました。それを基盤に、戦後の歴史のなかで残された大きな問題のひとつである北東アジアの平和と非核化を何としてでも実現させたい。それができれば、軍事力による安全保障ジレンマにはまりこんでいる北東アジアを平和の発信地にしていくことができると思い ます。
 私どももNGO組織強化支援をいただくことで、この機におつきあいが始まりましたが、皆さまと連携をしながら、支援を有効に生かしてご期待にそえるように努力していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


*南北首脳会談ならびに米朝首脳会談での合意履行の 外交過程を追跡するプロジェクト。監視レポートを日・ 英・韓の三カ国語で3週間に1回発行。ほか、セミナー やワークショップの開催や、関係国に要請文の提出な ど政策提言に力をいれている。


特定非営利活動法人ピースデポ

核兵器の廃絶、そして軍事力に頼らない安全保障体制を目指して、系統的な調査・研究・情報発信を行っています。市民の手による、平和のためのシンクタンクを目指しています。

ピースデポが目指す7本の柱
 1.市民の活動に役立つ、平和問題のシンクタンクとなること
 2.軍事力が平和の担保となるという常識が支配する世界の現状を変えるために、世界のNGOと連携した活動
 3.日本の市民が、平和のために果たすべき役割を意識し、それを追求する活動
 4.一次資料に基づく正確な情報、分かりやすい分析を重視した活動
 5.防衛・外交に関する行政の情報公開を前進させること
 6.草の根活動と専門家集団の新しい協力関係の構築
 7.「法人化」を活かし、平和活動NG Oの社会的評価を高めること