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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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その他の地域2013/12/12

砒素鉱害の歴史と向き合い、自然エネルギーの可能性を探る②


 次に、今回のスタディツアーのメインである土呂久地区を訪問。土呂久にあった鉱山で猛毒の亜砒酸が製造され、その過程で大気、水、土壌が砒素で汚染され、人体、家畜、農作物に深刻な被害が出た歴史を学びました。この問題は、1971年に地元の小学校教師が調査した際に、最近53年間の死者の平均寿命が39才で、苦しんでいる患者が多数いることを報告されたことから脚光を浴び、1973年には環境庁が慢性砒素中毒症を公害病として認定したそうです。最終的には、砒素中毒の患者が企業を相手に損害賠償を求め、1990年に最高裁で和解が成立して終わりましたが、それに至るまでの壮絶な闘いの歩みを資料や証言を通して伺いました。

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 当日現地を案内していただいたのは、遺族原告で農家の佐藤慎市さん。硫砒鉄鉱を掘り出した鉱山に入る坑内の入口、硫砒鉄鉱を焼いて亜砒酸を作り出していた窯跡、汚染された焼き殻が捨てられた場所、鉱山で働いていた人たちの住居跡など、様々な現場をくまなく案内していただきました。一見静かでのどかな山村でしたが、農山村の暮らしを犠牲にしてまで亜砒酸製造が繰り広げられてきた中に、近代の開発優先主義や人権軽視の歴史を見る思いがしました。また、砒素鉱害と闘う住民たちや、それを応援する学者や支援者の活動は、日本におけるNPO活動の先駆けとして、広く長く後世に語り継いでいく必要があると感じました。こうした活動を契機に、砒素中毒の問題がアジア各地で起こっていることを知り、アジア砒素ネットワークへと組織を発展させて、海外での支援活動に取り組む姿勢は、ある意味で自分たちの問題を基点に世界の問題へと関心を拡げて活動を深化させていく過程として注目されます。また、国際協力NGOが海外での活動のみならず、常に自分の足元の問題、日本の地域が抱える問題等とリンクさせて考えることの大切さを改めて思い知らされました。

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 最後の訪問地は、大分県九重町にある九州電力八丁原地熱発電所。ここは、日本最大の地熱発電所で、見学に来ていた大勢のおじいさん、おばあさんたちと一緒に地熱発電の仕組みや今後の可能性について施設を見学し説明を聞きました。ここの発電所では、1号機と2号機合わせて11万キロワットの発電能力があるものの、九州電力全体の発電に占める割合は約4%にとどまり、3号機の予定もないとのこと。地熱発電に適した立地条件であることを調べる調査は時間がかかり、安定性、安全性、将来性に優れた発電方法にも関わらず普及が進んでいない現状を知ることになりました。

 国は現在13ヵ所で地熱発電の候補地について調査を行っており、将来的な地熱発電の普及を推し進めているそうです。現在、日本のエネルギー供給に占める自然エネルギーの割合は僅か1%。その半分以上が地熱発電です。今後、日本でも自然エネルギーが普及していくと思われますが、最も効果的で効率的なエネルギー源はやはり地熱発電ではないかと感じました。何しろ原料の調達が不要で、ほとんどCO2も出しません。しかもメンテナンスが楽で半永久的に使えるとのこと。地熱発電施設を建設するだけで5億円以上かかるといわれますが、八丁原地熱発電所の場合は既に回収されたそうです。今後ますますの普及が望まれます。

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 今回のスタディツアーでは、過去の鉱害問題から現在・未来の自然エネルギーの取り組みなど、九州中部の様々な顔を見ることになりましたが、今後の地域のあり方を考えていく場合、フェアトレードも含めて、やはり鍵になるのは地域を盛り上げようと奮闘している人たちの存在であると感じました。九州の豊かな自然や文化、伝統に触れる機会にもなって、もっといろんなことを知りたい、将来住んでみたいと思えるほど、温かい人たちとの出会いや交流がありました。今回訪れることができなかった九州の北部と南部にもいつの日か足を伸ばしてみたいと思います。