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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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平和人権/中東

平和人権/中東2012/10/08

混迷が続くアフガニスタンでの人道支援


アフガン2012

混迷が続くアフガニスタンでの人道支援

日本国際ボランティアセンターアフガニスタン現地代表 長谷部貴俊

対テロ戦争とはなんだったのか?

 治安権限移譲プロセスの一環として2011年7月から米軍は撤退開始し、2014年までの移譲終了が合意されていますが、アフガニスタンの治安回復の道のりは遠く、国連の調査によると過去5年間で1万1846人の民間人が戦闘の巻き添えで死亡しています。JVCが活動するアフガニスタン東部においては、過去数年間で地域社会でのタリバーンのプレゼンスが増しており、タリバーンを支持する住民は多く、武力による問題解決は不可能なレベルに達しています。東部のヌーリスタン県などでは、ほとんどカルザイ政権の影響は及んでいない状況です。日本では対テロ戦争そのものが忘れ去られようとしていますが、対テロ戦争の根本的な問題が、今のアフガニスタンにあります。

厳しさが続く人道状態

 人々の暮らしも厳しい状態が続いています。2011年国連人道調整機関は止むことのない紛争、自然災害、人道支援へのアクセスが限定されていることなど複数の理由が、アフガニスタンにおける人道危機の原因と述べています。410万人の食糧が十分でなく、さらに百万人が食糧生産のための農業支援が必要だろうとみなされており、衛生状況も悪く全人口の68%が安全な水にアクセスできない状況にあります。また、学齢期の子どものうち42%が学校に通うことができないと国連の報告書は述べています。失業率が高く、電気などインフラも未整備の状態で、多くの市民は生活を維持することが困難です。

人々の健康を支えるJVCの支援活動

 そのような中、JVCは2001年からアフガニスタンの東部で活動し、2005年より東部ナンガルハル県シェワ郡ゴレーク地域において、診療所運営並び村々の健康教育を実施しています。JVCの支援している診療所は、アフガニスタン社会の中ではかなりの高水準であるという外部評価を得ることが出来ました。また、2005年から2008年にかけて診療所での健康教育を強化し改善に取組みながら、新たな試みとして簡易診療所の開設が予定されていたクズ・カシコート村で現状把握を目的とした健康診断と生活状況調査を実施しました。その後病気予防の取組みの核を担う保健委員会が3つ設置され、予防のための実践に向けた基盤を築いてきました。

 2011年度から4年間実施することとなる現在の中期計画では、2箇所の診療所の運営を維持しながら、住民主体の予防医療に力を入れています。母親教室は、ゴレーク村で新たに5クラスを開始し、昨年は計18箇所で実施しました。クラス受講後、女性たちに行うテストの結果を見ると保健に関する知識がかなり増えていることがわかります。参加者からは、「不衛生な水や食べ物、汚れた手や環境が下痢の原因であることを理解するようになった。」
「以前より家の中をきれいにするようになった。また以前は拒んでいた予防接種を、今は積極的に受けるようになった。」という声が聞こえます。

 また、2年前に導入した家族単位のカルテの運用は依然いくつか課題があるものの、だいぶ定着してきています。(日本ではカルテはあたりまえですが、アフガニスタンではほとんど導入されていません)一部の村では、村ごとの受診状況、病気の傾向を保健委員会に伝えています。今後は、村のリーダーから成る保健委員会との協働作業に注力しつつ、住民の予防知識を深め、実践につなげることと、保健委員会による自主的な健康改善策の立案・実施への支援をめざしています。

アフガニスタンを忘れない

 国際社会は、軍事の撤退だけでなく、復興支援の関与も減らそうとしています。多くのアフガニスタン市民は、2014年以降が、ソ連撤退後におきた国際社会に忘れられ内戦になった過去の繰り返しになるのではないかという不安を抱いています。そのような中、今年7月には日本でアフガニスタンの復興会議が開かれる予定です。東京会議を欧米諸国の一部の「我々はアフガニスタンを自立させた。もう、地元の人たちで大丈夫だ。それなので、自分たちは出て行く」という逃げ口上の場に使うのではないかという危惧があります。そうではなくて、国際社会、日本としてアフガニスタンの自立を考えながら、復興支援にどのように関わっていくのか、真剣な議論が今必要となっています。これまで現地で復興支援に関わってきたJVCは、日本、アフガニスタンの市民社会と連携し、東京会議に向けて活動地での人々の現状、アフガニスタン市民社会の声を元に、なにがアフガニスタンの人々に必要なのか、どうアフガニスタンの市民社会が立ち上がろうとしているのかを伝えていきます。