平和人権/中東
平和人権/中東2015/03/27ツイート
イスラエルとパレスチナの分断を加速させる分離壁と入植地
イスラエルとパレスチナの分断を加速させる分離壁及び入植地
ヨルダン川西岸地区に入ると東エルサレムにいるとき以上に巨大な構造物が目に入ってきます。いわゆる「分離壁」と呼ばれる、場所によって高さ8メートルにも達する巨大なコンクリートの壁です(有刺鉄線や電気フェンスのところもあります)。アパルトヘイト・ウォールとも呼ばれています。この分離壁は、パレスチナ人がヨルダン川西岸地区とイスラエルを自由に行き来できないようにする目的で、イスラエルが2002年から一方的に建設を進めており、文字通りイスラエル市民とパレスチナ人を分断しています。イスラエルは、パレスチナのテロリストが起こす自爆テロから自国民を守るという名目で築いており、彼らは「セキュリティ・ウォール(フェンス)」と呼んでいます。
2004年に国際司法裁判所は、イスラエルが行う占領地での分離壁の建設は国際法違反であり、分離壁の撤去やパレスチナ人の被害に対する補償などを求める勧告的意見を言い渡しました。それを受けて、国連総会でも分離壁の建設中止を求め、国際司法裁判所の勧告的意見に従うように求める決議が採択されました。しかしながら、イスラエルはアメリカの強力な保護もあってこの決議を無視し続けています。しかも、分離壁はグリーンライン(第1次中東戦争後の1949年に国際的に認知されたイスラエルとその占領地の国境線)を大幅に超えてパレスチナ側まで張り出して建設されることが多く、自分の土地が分離壁の向こう側になってしまったパレスチナ人は容易に自分の土地に入ることができず、実質的にイスラエル側に奪われてしまった状態になっています。
もう一つ、ヨルダン川西岸地区で特徴的に見られる光景は、荒涼とした大地に突如として現れるイスラエルの入植地です。ここでもパレスチナ人から自分たちの身を守るためという理由で周囲に防護フェンスが張り巡らされています。入植地では自警団が組織されることが多く、近隣のパレスチナの村への嫌がらせも度々起きているとのこと。しかも生活に欠かせない水は入植地に優先的に供給されており、パレスチナの人たちは容易にアクセスできない状況にあります。
このように、ヨルダン川西岸地区では、パレスチナ人の生活を脅かす分離壁の建設が進み、周辺と断絶した中で厳重な警備を伴った入植地がパレスチナの人たちを威圧するように点在するという異様な光景が広がっています。
こうした分離壁と比較されるものとして、米ソ冷戦の真っ直中の1961年に東ドイツが建設した「ベルリンの壁」が思い起こされます。この壁はベルリン市民を真っ二つに分断し、西側諸国の自由を求めて命がけで乗り越えようとした東ドイツ住民が東ドイツの警備兵に銃撃されて命を落とすケースが後を絶ちませんでした。しかしながら、分離壁との決定的な違いは、ベルリンの壁が東西両陣営の力が拮抗する中で、主に東ドイツ市民の西側諸国への流出を防ぐという物理的な理由から建設されたのに対し、分離壁はパレスチナのテロリストを食い止めるという以外に、イスラエル市民とパレスチナ人の分断を進め、イスラエルの支配権限が及ぶ範囲を明確にするというねらいがあるように感じます。あたかも、イスラエルの強大な力を誇示し、圧倒的な力の差を見せつけて相手をねじ伏せ、絶望感を植え付けようとする意図が感じられます。さらに、異なる価値観・宗教観を持つ面倒な相手との交流を拒絶し、自分たちに都合のよい人間だけを集めた閉鎖的な社会をつくろうとする政治的な思惑も見え隠れします。
今回の研修で初めて分離壁や入植地が広がる光景を見て、パレスチナの人たちが抱えている苦悩ややるせなさに思いをめぐらすことになりました。現在の状況はパレスチナの人たちの人権を著しく脅かしており、この地に平和をもたらそうとするあらゆる努力やパレスチナの人々が欲する平和への願いを踏みにじるものであることは間違いありません。それとともに、イスラエル社会が抱えている孤立感・不安感というものがこのような状況を生み出している現実を改めて思い知ることとなりました。
今のままだとこの分断が既成事実化されて、もはや修復不可能な状態にまで陥ってしまうことが懸念されます。分離壁は単なる物理的な壁に留まらず、これまであった民族・宗教の違いを乗り越えた交流や精神的なつながりなどを完全に断ち切ってしまうように感じます。これはイスラエル・パレスチナ双方にとって計り知れない損失といえるでしょう。いまこそ、分離壁や入植地をめぐる問題を解決するために、まずはイスラエルがパレスチナ側に歩み寄って分離壁の建設を中止するなど譲歩を示し、問題解決のために共に行動することが求められています。
ベルリンの壁は建設から28年余りで崩壊しましたが、人間の英知を結集して、分離壁はそれよりもっと短い時間で取り払われるべきであると考えます。(D)