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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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平和人権/中東

平和人権/中東2011/05/10

エルサレムに平和を作る努力


エルサレム巡回診療

エルサレムに平和を作る努力

日本国際ボランティアセンターパレスチナ事業担当 津高政志

分断された街エルサレム

 世界にここよりも複雑な町があるだろうか———訪れる多くの人にそう思わせる町、エルサレム。

 現在エルサレムは国際的な取り決めによりイスラエルに属する西とパレスチナ自治区に属する東に分かれていますが、イスラエルが違法に東側を「併合」したことにより、両方がイスラエルの実効支配下にあります。旧市街を含む東側には保健サービスなどが行き届かず、パレスチナ人たちが厳しい生活を余儀なくされています。

 多くの日々は平穏に過ぎるエルサレムですが、宗教間、宗派間、または政治的な理由などで衝突が発生することもあり、ひとたびそうなると3万人ものイスラエルの治安部隊が出動し、人々の移動が様々な方法で制限されます。まるで都市自体がひとつの生き物のようです。

JVCの支援

 JVCは、混迷を続ける東エルサレムで「医療救援協会(MRS)」という地元のNGOと共に、東エルサレムにある50以上の学校で1万8千人以上を対象に保健教育や健康診断といったサービスを提供しています。MRSの医療チームは医師1名と保健指導員3名。彼らがエルサレム中を飛び回り、日々学校や幼稚園をベースに活動します。

 9月から始まったパレスチナの2010年度、私たちが特に力を入れたのは保健教育を受けた生徒が他の生徒たちに教えるという「トレーナーのためのトレーニング」でした。これはより多くの生徒に知識を波及させる効果を狙い5校で試験的に始めたものですが、多くの難題がありました。

トレーナーの育成

 これまで行ってきた保健教育と違い、生徒たちには保健に関する知識だけではなく、「人前で話す」「わかりやすく説明する」「質問に受け答える」など、皆に伝えるための方法を教える必要がありました。普段は先生の話を聞くことがほとんどで、発表することには慣れていない生徒たち。しかし、医師と保健指導員は丁寧に我慢強く教えていきます。その甲斐もあってか、少し経つと生徒も発表に慣れ、それを楽しむようにもなってきました。

 一方、学校側との調整が問題になることもありました。毎週日時と教室を決めて生徒たちを集めるのですが、学校側が生徒たちに伝達を怠り、いるはずの生徒たちがいないということが起こりました。学校側の要請があってそもそも始めている活動であるはずですが、担当の教師にまで徹底が行き届いているというわけではないようです。普段は優しい医師も怒りや落胆を表すことがありました。しかし、エルサレムの石畳を歩く帰り道に話す医師の口調は希望を失いません。

「きっと次は学校側もきちんと生徒を集めてくれるさ」

 エルサレムの情勢もあり、日程を日程通りにこなすことがただでさえ難しいのですが、しかしだからこそ彼のように前向きに、そしてひたむきになれる人が一層輝いて見えます。

地域からの平和づくりの可能性

 JVCはこのような努力をMRSと続ける一方、東西エルサレムにおける平和構築の可能性を探るため、2009年から女性のエンパワーメント活動を開始しました。東西それぞれの地域で女性たちが地域や生活の中の課題について話し合い、その中で共通する課題に向けてともに取り組むことでお互いの顔を知ることができ、また信頼を構築するきっかけとなることを目指しています。

 東西エルサレムの地域間には、それぞれ地域の抱えている課題や、社会活動に対する期待や目的意識に圧倒的な差があります。例えば、西エルサレム側では公共サービスも整っている上に、社会活動は行政から大きな支援を得られます。一方、東エルサレムでは公共サービスも西エルサレムに比べて目に見えて乏しい上に、社会活動も行政支援を受けることができません。それは、占領者であるイスラエルが東西エルサレム間に圧倒的な力の差をつくり上げていることが原因です。そのような中、「共通の課題を見つける」という作業は想像していたよりも困難なものでした。

 しかし一方、宗教的かつ伝統的社会に住む東エルサレムの女性たちにとって、自分たちが日々生活の中で抱えている課題について話し合う機会はとても貴重なものでした。日々変化する政治状況に翻弄されることがないよう自らの地域社会を築いていくプロセスは、「紛争予防」の観点からも草の根レベルの平和構築の基礎となっていくでしょう。「上から押し付けられる」形の平和構築ではなく、地域から自発する動きを、今後もどのように応援していけるかを人々とともに考えていきたいと思います。