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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2024/05/30

【5月】不条理に怒る、葛藤を大切にする


 今月、朝日新聞の悩み相談コーナーが話題になりました。

 相談者さんは50代男性。「ウクライナやガザなど、不正義や理不尽な行動を伝える新聞報道を見るたび、怒りに燃えて困っています」「今後、ますますひどい状況になることが想定される中、どのように気持ちを保っていけばよいか」とアドバイスを求めていました。

 回答者はタレントの野沢直子さん。「そんなに心配なら最前線で戦ってくれば」と始まります。そして、接している情報が一面的なのではとし、「あなたは幸せのあまりに心配の種が欲しくなっただけでは。今ある幸せに感謝することから始めては」と結びます。

 この回答自体も充分乱暴ですが、加えてこれに付された朝日新聞編集委員のコメントが、「心配なら現場に行け」という言葉を肯定したものでした。それはマスコミの責任放棄ではないか。また、虐殺を憂う読者を編集委員が冷笑するとはなにごとかと、たちまち反発の声がネットに続出することとなります。

 野沢直子さんの回答から、一昔前に仏教界で流布していた、被差別部落の人々やハンセン病の元患者の方々への法話を思い出しました。「あなたは実はもう救われています。仏さまがいつもご一緒です。だから、今の境遇を恨むことも嘆くこともなく、感謝することから始めなさい」と。この種の法話は、現実にある差別の温存と助長をするだけで、むしろ仏教に反するものとして、現在は語られることはほぼなくなりました。

 今回の野沢さんの回答は、全否定できるものではありません。相談者さんの「気持ちをどう保っていけばいいか」という問いへの答にはなっていると思います。

 その上で、相談者さんには野沢さんとは別の答をお伝えしたいのです。怒りに燃えるのは、当然だと。平静でいられないのはごく普通の精神だと。気持ちを保ちたい、とはこの気持ちがいつか暴発するのでは、との危惧でしょうか。でも、傷つけられている人びとを思い続けることは大切なことです。その気持を否定するのではなく、受け止めて何らかのアクションにつなげられるよう、その情報を伝えることもマスコミの役目のひとつだと思います。前線に出るのが、最善のアクションだとは到底思えません。

 改善への手だてとして、自分に何が出来るかを考え続けることも、気持ちを保つ一助になると思います。幸い、相談者さんの思いに共感する声が、当の相談コーナーやネット上にも少なからずあがっています。そして、不条理に怒り、それを前向きなアクションにしているのが、まさにNGOです。気持ちを受け止めるのは僧侶の役目でもあります。相談者さんの葛藤に同意する者がここにもいることを表明します。(アーユス)