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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2024/03/26

【3月】社会の海を渡る辞書に


 「ほんと助かる。朝から電話する余裕なんてないから、私」と食事会の店の予約をしてくれた友人へお礼をした主人公・岸辺みどり。でも、結局この食事会に彼女が呼ばれることはありませんでした。

 この春にNHKBSで放送されているドラマ『舟を編む』の一場面です。三浦しをんの原作はこれまで映画やアニメにもなっていますが、ドラマはかなりいい出来です。

 岸辺はとある出版社で華やかなファッション雑誌の制作に関わっていましたが、廃刊とともに辞書編集部へ異動となります。地味で変わり者の集まりの辞書編集部への配属は、左遷以外のなにものにも思えませんでした。

 しかし、辞書を編む中で、様々な気づきと出会いがあります。言葉の使い方も改めて考えたりもします。ふと思って「なんて」という言葉を引くと・・・

「①次にくる動作・作用の内容を,軽視する気持ちを込めて例示する。②軽視する気持ちを込めて、同格の関係で次の語を修飾する。③無視または軽視する気持ちを込めて,事柄を例示する(大辞林)」

 冒頭の自分のせりふがよみがえります。そしてこれまで「なんて」と言って傷つけた人たちの顔が浮かび始めます。それをきっかけに言葉ひとつひとつの意味を味わうようになり、気持を表すこと自体が丁寧な作業に変わっていく主人公でした。

 言葉はまるで海のよう。意味の深さやその力を知ると考えるほど迂闊に使えないと躊躇の気持ちも生まれ、中に入っていく勇気すら失いそうですが、そこには私自身を広げて行く無限の可能性が待っています。

 社会課題に出会うのにも似ているかもしれません。知れば知るほど無力感を味わい、その場にいたくなくなることもあります。でもそこでしか出会えない人たちや経験は必ずあります。

 言葉の海を渡るお手伝いをするのが辞書であるなら、私たちは社会の海を渡る辞書になりたいものです。精進します。(アーユス)