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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2022/04/27

【4月】感情の経済運転の先・・・


 映画やドラマなどの映像作品を、倍速視聴したり10秒スキップすることが、若年層の間ではほとんど「当たり前」になっているそうです。その現況を紹介し考察を加えた本『映画を早送りで観る人たち」(光文社新書)によれば、今や大学生の66%がそれらの機能をよく利用しているというのです。筆者の稲田豊史氏はその理由として、①配信サービスの普及によって視聴可能な作品が増えたこと、②セリフですべてを説明する作品が増えたこと、③コストパフォーマンスを求める人が増えたこと、の3点を挙げています。①は誰もが思うことでしょう。②はこれが原因というよりも早送り状況への対応策と見た方がいいかもしれません。

 気になるのが③のコストパフォーマンスです。2時間の作品を1時間で観たら浮いた1時間を他に使える、という考えです。ニュースや情報系の作品ならそれもありと思いますが、物語作品でそれをすると、作品が本来提供するはずの感動を得られないではないか、と考えてしまいます。それに対して、倍速視聴をよく利用する人のこんな考えを聞きました。「ちゃんと味わうのはむしろ不快」。え?「作品によってドキドキさせられたり、期待を裏切られたりと感情を揺さぶられることは疲れるので避けたい」という人が少なからずいるというのです。近年、スポーツの生中継番組の人気が下がっているのも同じ「感情の経済運転」からではないかと稲田氏は推察しています。

 「感情の経済運転」。気持ちを無駄に動かさないことによって、より多くの情報に触れ、それを消化・消費しやすくなることを言うようです。それが賢明な一面があることは確かでしょう。しかしそれは常態化してほしくありません。経済運転をしない場面を担保しておいてほしいのです。

 特に現実に対峙したとき、感情を排した方が正視できる状況もありますが、時間をかけて、感情を働かさなければ分からない事実もあることには誰も異論はないでしょう。物語も同じです。一旦は作品を倍速で「消費」することもいいと思います。それでそこに少しでも感情を動かしてもいい価値を感じたら、正常速度で物語世界へ再度どうぞ。その時、作品はあなたを「当事者」にしてくれるかもしれません。(アーユス)