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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2024/07/31

【7月】不快感と美からの快感


 今、東京都内にある世田谷文学館で、漫画家・伊藤潤二さんの原画展「誘惑」が開催中です。伊藤作品はアメリカとフランスの漫画賞を複数回受賞するほか、ヨーロッパや南米、台湾など30を超える国と地域で翻訳され、世界中に熱狂的なファンを有しています。

 ジャンルで言えばホラー。しかし伊藤作品には、妖怪や怨霊が出てくるわけではありません。日常の中に、現実にはありえない悪夢のような世界が精緻な筆致で描かれ、生理的な不快感と美からの快感が同時に湧き上がります。

 そんな伊藤作品に通底するのは「不安」と「ユーモア」。代表作「うずまき」では、日常すべてがうずまきにのみこまれていきます。体さえ渦巻きになっていく。時には守口漬けのように・・・。おぞましいと同時に滑稽です。「誘惑」展には、入場者自身がうずまきになってしまう体験ができるブースがありました。鏡に映った自分の姿の姿が、うずのように変形していきます。気味悪くも笑ってしまいます。それは、確かと思っている自分の不確かさを示しているコーナーのようでもありました。

 ホラーは人に不安や恐怖をもたらします。しかしホラーは人を惹き付けます。ホラー好きな人は不安や恐怖を享受しているのでしょうか。いや、享受というより、不安や恐怖を覚えるべきことから目をそらしている普段の自分へのカンフル剤としていることもあるような。

 国内外問わず、不安や恐怖を感じさせる現実の事象があります。それらへ無自覚になったり耐性ができてしまっているとしたら、それはホラーより怖いこと。この夏、ホラーに接して、不安や恐怖を思い出してみませんか。「伊藤潤二展 誘惑」は9月1日までです。(アーユス)