先日、NHKのテレビ番組「あさイチ」で、がんに罹った医師の話が特集されていました。
そこで紹介されていた医師、上野直人先生は、がん治療では世界の最高峰とされるアメリカ・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの教授です。ある日に体の不調を覚え、検査をすると骨髄異形成症候群(血液のがん)と分かります。治療法として勧められたのが骨髄移植。成功率は七割で、失敗した場合は命を落とすことになります。上野先生は迷います。不安に陥ります。そうなって初めて、患者の気持ちが分かったというのです。
実は上野先生、がんになる前に『最高の医療を受けるための患者学』という本を書かれていました。その中ではまず「医者には何でも質問をしよう」とアドバイスをしています。しかし自分が実際に患者になってみると、「医者に質問はなかなかできない」とつくづく思ったというのです。「信頼していないと思われるのでは」「時間を取らせて迷惑なのではないか」などと考えてしまって。
治療の甲斐あって研究活動に復帰した上野先生は、自身の経験を元に「患者学」を更新されるとともに「治療学」も更新されました。患者の不安に耳を傾け、汲み取りながらの治療に変わったとのこと。上野先生にとって、ご自身が罹患されたことは医師としてはむしろプラスだったのではとも思えてしまいます。
「分かっている」つもりは危険です。特に人の内心については。「その人の立場になって考えよう」とはよく言われますが、実はそんなことなどできないのが実際ではないでしょうか。一方で、相手が異国や異環境の人の場合では、端から「分からない」「分かりあえない」、だから関係を遠ざけよう、としがちです。それも危険。「分からない」は、丁寧に接しようという姿勢の源になるはずです。分からないから、より深いところへ行けるのが人間関係だとも思うのです。(アーユス)