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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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その他の地域2011/02/25

児童労働がない世界を目指して


児童労働がない世界を目指して

日本に住む私たちにできること

ACE

 現在、世界には2億1500万人の子どもが児童労働に従事していると言われています。子ども達の労働によって作られている物は、私たちの暮らしの中にも広く行き渡っています。例えば、チョコレートの原料となるカカオ、ジーンズの素材の綿なども、児童労働によって生産されていることが多くあります。
 児童労働に従事する子どもたちの中には、火薬を扱うなどの危険労働であったり、性的搾取の対象になったりなど、非常に危険な環境に身を置いている子どももいます。世界には、安心して子ども時代を送ることが出来ない子どもがまだまだ多く存在しているのです。
 アーユスが3年間ご支援させていただいたACEは、児童労働の撤廃と予防に取り組んでいます。現在は、ガーナとインドでも事業を実施し、日本国内では啓発活動と提言活動に力を入れています。今回は、ACEの事務局長である白木朋子さんから、現在の児童労働の状況と、日本国内でその撤廃に向けてどのような動きがあるのか、私たちにできることについてお話いただきました。


特定非営利活動法人ACE

 ACE(エース)は、児童労働の撤廃と予防に取り組む国際協力NGOです。
 107カ国で行われた「児童労働に反対するグローバルマーチ」をきっかけに、1997年に設立されました。インドとガーナで子どもを危険な労働から守り教育を受けられるようにする現地プロジェクトの実施、日本で児童労働の問題を伝える啓発活動、政府や企業への提言活動、ネットワークやソーシャルビジネスを通じた問題解決の活動を行っています。出典:ACE HPより


児童労働の現状

白木朋子

白木朋子(しろき ともこ)
 ACE事務局長、理事。宮城県仙台市生まれ。大学院ではインドの児童労働を研究。ACE設立メンバーとして、1997年より活動開始。英国留学を経て開発援助コンサルティング会社に勤務した後に、2005年より現職。現在は、海外プロジェクトの立案、運営管理(主にガーナ)、講演・開発教育ワークショップ講師、ファシリテーター育成、CSRコンサルティングなどのほか、広報、資金調達を含む組織マネジメント全般に従事。児童労働ネットワーク運営委員、宮城大学非常勤講師。
 著書に、「わたし8歳、カカオ畑で働きつづけて。児童労働者とよばれる2億1800万人の子どもたち」合同出版、2007年(岩附由香、水寄僚子との共同執筆)をはじめ、執筆多数。

 2010年に国際労働機関(ILO)が児童労働に関する新しい統計を発表しました。発表される数字は、発表年より2年ほど前のものになるのですが、過去10年の推移は表の通りです。

 この統計から、児童労働の実態の傾向と動向に関するいくつかの特徴が見受けられます。まず、2000年のデータだと2億4600万人、その4年後が2億2200万人、そしてその4年後が2億1500万人と、児童労働に従事する子どもたちの数は減ってきています。ただし、前の4年間に比べて、最近の4年間では減少のスピードが落ちてきていると言えます。その原因に関しては、あまり厳密に報告されていません。経済危機があったのはここ数年なので、その影響がこの数字に表れているかどうかは疑問です。

 もう一つの特徴が、15歳から17歳で最悪の形態の労働に従事している子どもが増えていることです。年齢別に見た場合、5歳から14歳という義務教育年齢の子どもの児童労働は減っているのですが、15歳から17歳で危険労働に従事している子どもは増えています。この原因についても厳密には報告されていないのですが、義務教育を進めることで児童労働を無くそうという政策が世界的にも比較的進んできている一方で、義務教育を受けるチャンスを逃してきた子どもたちに対してのケア、例えば職業訓練などがまだ課題として残されているといえます。

 またもう1つの特徴は、アジアやラテンアメリカでは児童労働が減る傾向にあるのに、アフリカだけは増えていることです。世界的には7人の子どもにつき1人が児童労働者といわれていますが、ラテンアメリカは10人に1人となり、アジアは世界平均と同じで、アフリカは4人に1人という計算になります。アフリカの状況が深刻です。

 また産業セクター別に見ると、農業が6割と言われていて、農業が占める割合が多いのが特徴です。

 あと、今年新しく出てきたデータに労働形態分布がありますが、これによると児童労働のほとんどが無報酬の家族労働です。雇用されて報酬をもらっているのは全体の2割。つまり子どもの多くは家業を助けていて、賃金をもらっているわけではありません。これと農業がすごくつながってきます。農業と言っても、大規模プランテーションで大地主に雇われているわけではなくて、小規模の農家が大人だけでは労働力が十分でなく、かつ貧しくて子どもの教育費をまかなえないので自分の子どもを働かせているケースが多いです。いわゆる家の手伝いではなくて、労働力の1つになっているということです。

 ACEとしても、2007年から農業であるカカオと綿に焦点を当てていますが、その戦略自体は間違っていなかったと思っています。世界的に、農業に従事する子どもが多いのはわかっていたのにも拘わらず農業への取り組みはそれほど進んでいません。というのも、子どもが学校へ行かずに働いているというだけで児童労働なのですが、労働法上、家族労働は違反にならないので取締りの対象にならず問題の解決が遅れるのでしょう。工場や限定された地域であれば労働監督官が入ってくるかもしれませんが、小規模な事業所や農業地域ではそれもほとんどありません。

5−17歳の子ども人口と労働人口の推移(単位100万)

  2000年 2004年(増減率) 2008年(増減率)
子ども人口 1531.4 1556.3(2.3%) 1586.2(1.3%)
就労児童 351.9 322.7(-8.3%) 305.6(-5.3%)
児童労働 245.5 222.2(-9.5%) 215.2(-3.2%)
危険労働 170.5 128.3(-24.7%) 115.3(-10.2%)

出典:『児童労働の撤廃へ向けた課題と日本ができること』ACE ワーキングペーパーNo.3 2010年

児童労働撤廃への取り組み

 ラテンアメリカで減ってきた理由の一つが、義務教育と貧困対策をセットに政策として進めてきたからと言われています。その中でも、ブラジルのケースがよく例にあげられます。英語でconditional cash transfer、つまり条件付き現金給付と呼ばれるもので、子どもを学校に行かせた家庭に一定の現金を支給するという制度で、それが功を奏したと言われています。そして、この成功例をインドやガーナなど他の途上国でも実施できないかと南南協力も進められているようです。ただし、国や財政規模も影響するので、他の国でそれが成功するのかはわからないと思います。

 私は、ほかにもできることがあると考えています。労働形態分布の統計が示す通り、子どもは現金を稼いでいないケースがほとんどです。だから、現金を給付するのが本当の救済策になるのかが疑問です。大人がしっかり働いて、家族を支えるという基盤を作ることが大事なのではないでしょうか。例えばACEのカカオのプロジェクトでは、地域住民全員がカカオ農家なのでカカオの収穫が増えるように技術トレーニングをし、少しでも付加価値がつくように有機カカオの生産も始めました。それで自分たちで現金を稼げるようになれば、こちらが現金を渡さなくてもいいはずです。何が一番必要とされているかは地域によっても異なるので、地域の課題やニーズに応じた対策を考える必要があると思います。

 また、最悪の形態を定めた条約では、条約に批准した国は国際協力として児童労働を無くすための取り組みをすることが明記されているので、自国内に児童労働の問題を多く抱えていない国には、国際協力を通して児童労働の問題に取り組むことが期待されています。一番熱心なのはアメリカで、ILOが実施している児童労働撤廃に特化した技術協力プロジェクトに一番多くの資金を提供しています。その後に、スペイン、欧州、イギリスなどが続きます。

 日本は児童労働対策への資金協力に積極的でありません。ILOの管轄である厚生労働省が担当になりますが、児童労働に対してはほとんど関心がないので、日本ももっと積極的に取り組むよう「児童労働ネットワーク」(注1)を通じて提言をしています。

 外務省も児童労働に特化したプロジェクトは実施していないのですが、日本政府の立場からすると、人間の安全保障基金の枠の中でストリートチルドレンや人身売買に対してはいくらか資金を出しています。しかし、国際協力機構(JICA)も児童労働のプロジェクトは実施していません。 

 ACEとしても、どのように政策提言を進めていくかずいぶん議論を重ねてきましたが、最近では政策を変えていくというよりは、ACEが行うプロジェクトで実績をあげて成功事例を示していく方向に方針転換しつつあります。例えば草の根技術協力などの政府の資金を使って事業を実施し、その結果モデル事例となれば、政府の実績にもなるのでもっと国レベルの政策に影響できるのではないかと考えているところです。

年齢層別の児童労働者の推移(2000年、2004年、2008年)

  2000年 2004年 2008年
児童労働者数(5〜14歳) 186万人 170万人 153万人
危険労働に従事する子どもの数(5〜14歳) 111万人 76万人) 62万人
危険労働に従事する子どもの数(15〜17歳) 59万人 52万人 62万人

出典:『児童労働の撤廃へ向けた課題と日本ができること』ACE発行(2010)

日本国内の児童労働への意識の高まり

 日本国内の児童労働に対する関心は、高まってきているのではないでしょうか。1つはテレビ番組で取り上げられることが増えてきています。去年の年末の日本テレビ「世界一受けたい授業」でも児童労働が取り上げられ、私自身、NHKBSの「地球ドキュメント ミッション」で取り上げていただきました。

 企業も社会的責任(CSR)の話をするときに、「例えば児童労働とか、・・・」と企業の人の口から児童労働という言葉が出てくることが増えたように思います。ただ、言葉としての認知度が高まっていることは感じますが、企業が自分たちの事業に児童労働がどのように関わっているかを認識し、それに対する解決策を提示するところまでは至っていません。まだ自分たちとは関係ない問題と思っている気がします。

 今、欧米では、フェアトレードなどの認証マークをつけたチョコレートが増えてきています。去年、オランダで開かれた世界カカオ財団の会議にも参加したのですが、その会議での一番の話題が有機やフェアトレードなどの認証付きのチョコレートで、認証をつけることによる効果などが活発に議論されていました。企業がフェアトレードなどを積極的に取り入れるようになったのは、欧米では企業のCSRと経営戦略が一体化しているからといえます。フェアトレードを導入するのは決してチャリティではなく、経営戦略上有効であるという判断のもとに行っています。日本ではそのような理解は進んでおらず、コストが上がるだけ、余裕があれば取り組むものという意識が強いために、実際には導入までは至っていないのでしょう。

消費者も意識を変える必要がある

 ヨーロッパでは、企業がフェアトレードのものを売る判断をするのは、消費者が求めるからという側面もあると思います。裏を返せば日本の消費者が商品の背景を気にして買い物をしていないということにつながるのでしょう。そういう意味では、私たちも商品の裏側にあるさまざまな問題を伝えた上で、消費者自身が商品を選択できるよう働きかける必要がもっとあるのではないかと思います。

 そのような問題意識もあり、フェアトレードなどにとりくむ組織で「チョコレボ・アライアンス」(注2)を結成しました。企業は、フェアトレードに関心を持ち始めているのですが、いざそれを自社で導入し始めるためには、顧客がそれを受け入れてくれることが前提になります。そこで私たちのような、「人と地球にやさしいチョコ」を取り扱っている企業団体が連携し、一緒に情報発信をしていくことで、客層を広げることはできないかと考えました。少ない客層を取り合っていても仕方なくて、絶対的な顧客数を増やさなければ、「人と地球にやさしいチョコ」も増えていきません。背景がわからないチョコレートを売っている人たちが、「人と地球にやさしいチョコ」を売るようになれば、もっと顧客が増えるかもしれない、売れるかもしれないと思ってもらうことが必要と考えました。

 最近は、大手の会社もフェアトレード商品を作っていますが、フェアではない商品の一部に過ぎない場合が多く、それではイメージアップのためにフェアトレードを実施しているのではとの批判的な意見も耳にします。しかし、何もやらないよりは少しでもよい取り組みを取り入れてもらう方がいいともいえます。批判するのは簡単ですが、できることから取り入れることでそのような取り組みが徐々に広がって、それが当たり前になっていけばよいのではないかと思います。

 今回、私たちも「スマイル・ガーナ プロジェクト」(注3)を実施するにあたって、森永製菓株式会社の「1チョコfor1 スマイル」キャンペーンのパートナーとして、対象商品の売上から寄付をいただくことになりました。実際には、森永製菓の商品に児童労働がないとはいえない中で、そこから寄付をいただくことについては議論しました。しかし、児童労働があるかないかを把握している企業さえもほとんどないのが現状ですから、業界が抱える問題に向き合っていただくことが第一ステップといえます。まずは寄付という形で、児童労働の問題がおきている地域に対する支援を行う意義は大きいと考えています。

 ACEとしては、将来的に児童労働のないカカオを使ったチョコレートを作ってもらいたいという意向も伝えたうえで、まずは一緒にできるところから始めているところです。課題はたくさんありますが、1つずつ乗り越えていかないと前に進めないので、長い視野を持って関係性を作りながら、企業活動の中で本質的に児童労働を予防していくような提案ができるようにしていきたいと思っています。現地プロジェクトの期間は3年ですので、少なくとも3年は継続して寄付をいただけるようにお願いしています。これがうまくいったら、また続けてもらえるかもしれないですし、継続して取り組むことでガーナ全体でカカオ生産に関わる児童労働をなくしていくことを目指しているので、今始まったこの取り組みを応援してくれる人が増えることを期待しています。

児童労働によらない製品の普及を目指して

 実際、調達する原料にさかのぼって、企業が児童労働がないかを調査することはほぼありません。ただ、綿の話になりますが、ウガンダの有機綿のジーンズを販売しているリー・ジャパン株式会社が、昨年現地で調査を実施しました。もともとその製品の売り上げの一部をあるNGOに寄付しているのですが、チャリティプログラムの中に児童労働などがあってはいけないということで、リー・ジャパンとNGOが契約をするときに、第三者による監査を入れることを合意し、その実施にACEが協力しました。ここまで実施することはほぼないので画期的なことでした。通常の綿は生産地をさかのぼることができないので、有機綿であったことが幸いでした。

 カカオも調達している元の生産地域までさかのぼればよいのですが、通常は出所まで辿れるようにはなっていません。さかのぼれるようににすることで実態が見えてくるのですが、実行するには全体のシステムを変えなければいけません。

 今カカオに関して目標にしているのは、現在活動している村から児童労働のないカカオを輸入し、それでチョコレートを作ることです。しかし簡単なことではありません。今の段階では、カカオの輸出は全て政府機関が管理しているので、通常のカカオ豆は村を指定して輸入することはできないのです。それをするには、有機やトレーサブルカカオ(生産地までさかのぼることができるカカオ)といった、特別なプロジェクトに乗って取引する方法しかなく、有機の認定を取るには3年が必要なので、すぐには難しいのが現状です。

 あとは、有機カカオを使いたい企業がどれくらいあるのか、どのくらいの量を有機カカオとして取引してもらえるのかということも重要です。あくまでもビジネスですから、取引業者としても少ししか取引のないものに対して特別な輸送ルートを割くことはできません。ビジネス上の交渉の場では私たちの出番はほとんどありません。私たちができることは、児童労働がないカカオを使った商品を欲しいと思う消費者の声を高めることです。それによって二の足を踏んでいる企業を動かすことができるかもしれません。

 ぜひ、みなさんの周りにいる人にも、フェアトレードチョコレートを勧めてください。ACEの取り組みを伝えてください。消費者の声が企業を動かせば、もっと児童労働から解放される子ども達が増えるはずです。


* 児童労働とは*

 子ども(18歳未満)のうち、15歳未満の義務教育就業年齢にあたる子どもたちの教育を妨げる労働、また15歳〜17歳の子どもも含めた危険・有害労働を児童労働といいます。

 また、以下の4つのいずれかにあてはまるものは児童労働です。

  • 子どもの教育を妨げる
  • 子どもの健康的な発達を妨げる
  • 子どもの心身に有害危険なもの
  • 搾取的である(強制的、自由を奪うなど)
  • 危険でないお手伝いやアルバイトなど、子どもの成長の度合いに見合ったものは「子どもの仕事(Child Work)と呼び、児童労働には含まれません。

以上、参照『みんなで取り組もう!児童労働NGOのための実践ハンドブック』(ACE発行、2009)、『ACE2009年度年次報告書』(ACE発行、2010)

*最悪の形態の児童労働とは*

 ILO条約182号 18歳未満の児童がかかわる次のような労働

  • 人身取引、債務奴隷、強制労働、強制的な子ども兵士
  • 売春、ポルノ製造
  • 麻薬の生産・密売などの不正な活動
  • 子どもの健康・安全・道徳を害し、心身の健全な成長を妨げる危険で有害な労働

出典:国際労働機関(ILO) 児童労働の現実


注1 児童労働ネットワーク
 児童労働に問題意識をもち、日本からこの問題の解決に貢献することを目指すNGO、労働組合などが加盟するネットワーク。ACEが事務局を務めています。

注2 チョコレボ・アライアンス
「人と地球にやさしいチョコ」を広めるために、生産者や環境に配慮して作られたフェアトレードやオーガニックチョコを輸入、販売する企業・団体で提携。「チョコを選べば世界が変わる」をメッセージに、2011年のバレンタインシーズンに「いっしょに、チョコレボ!」キャンペーンを実施しています。

注3 スマイル・ガーナ プロジェクト
 子どもを危険な児童労働から保護し、就学を徹底することを目的としたプロジェクト。子どもがしっかりと学校に通うようになることで児童労働を予防し、カカオ農家が継続して子どもの教育に投資ができるよう、カカオ農園の経営を改善し、農家の収入向上を目指しています。2009年2月から始まりました。