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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2019/04/25

【4月のメッセージ】テロの世界観に与しないために


 5月から元号が改まるにあたって、テレビではいくつも平成の30年の事件を振り返る特集番組が放送されました。そのいずれもで取り上げられたのが95年のオウム事件、そして2001年のニューヨーク同時多発テロでした。

201904_1 番組中でタレントの一人が「なんでテロって続くんですか。テロを起こしても結局自分たちが滅ぶだけで何も変わっていないじゃないですか」と発言していました。そうでしょうか。確かに、オウム組織は壊滅し、主要な実行メンバーの死刑が執行されました。同時多発テロの首謀者も殺害され、その人物をかくまったタリバンは政権を追われました。しかしテロは恐怖と不安と混乱を生みました。それこそがテロの主目的に他ならないのです。テロの語源が「恐怖」であることからしても。テロへどう対応するかにより、場合によってはテロへの加担にもなりかねないことを私たちは肝に銘じる必要があります。

 今月スリランカで、死者を300人以上も出してしまう大規模な連続テロが行われました。23日にはISが犯行声明を出し、理由を先月に起こったニュージーランドで50人の死亡者を出したクライストチャーチ襲撃事件への報復としています。周到な準備がされていたことを踏まえるとその理由をそのまま受け止めるのは留保したいと思います。テロ計画者の意向に乗らないためにも。

201904_2 クライストチャーチ事件は白人至上主義の思想によるものでした。この事件を受けてニュージーランドのアーダーン首相は、容疑者の名前を公の場で言うことはしないと宣言しています。名前を呼ぶことは彼とその思想を認めたことになるという理由からです。同じ価値観に並ぶことを拒否したのでした。さらに、事件で妻を亡くしたバングラデシュ出身の男性は、インタビューに応えて「私は殺人者を憎まない。自分は彼を許したので、彼のために祈っている」と述べています。これは寛容ではなく、憎悪の連鎖を断ち切るための意思表示です。

 今回のスリランカのテロにあたっても、ルワン・ウィジャヤワルダナ国防担当国務大臣はメディアに対して、容疑者の身元を明らかにしないよう要請し、次のように発言しています。「過激派に声を与えてはいけない。彼らを殉教者にする手助けをしてはならない」これも、テロに対しては徒な報復や厳罰より先に、その世界観に与しないことの有効性を示しています。テロとの戦いとは、そういう眼を維持し続ける戦いを言うのかもしれません。(アーユス)