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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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福島/脱原発/東日本

福島/脱原発/東日本2020/03/22

「つきだて交流館もりもり」に聞く。


 福島第一原発の事故から約2年。事故に関する報道は減り、原発被災地も復興に向かって進んでいる印象もありますが、被災地に住む人たちの苦しみや困難、そして葛藤はまだまだ続いています。
 今回は、アーユスが放射線量測定器を支援した、野菜の直売所と体験型学習施設である「つきだて交流館もりもり(以下、もりもり)」の千葉英行さんと金澤顕治さんに、これまでの葛藤と取り組みなどをお話いただきました。 (インタビュー:2012年11月。文責:枝木美香)


情報の大切さ
千葉 震災後、私たちが得た情報はテレビや新聞からばかりで、県や市からはほとんど何も伝わってきませんでした。届くのは唯一、野菜などの食品に関しての出荷制限の情報だけ。何をどうしていっていいのか、何もわからない状況が続いていました。
 放射能の空間線量に関しても、テレビによると影響を与えるのは毎時20μSv以上ということ。このあたり、震災後は毎時8μSvはあったんです。でも20に対しての8ですから、大丈夫だと思って普通に生活をしていました。

つきだて花工房から見える農村風景・・・

つきだて花工房から見える農村風景・・・

 月舘のほとんどの人は農業をしていますが、高齢者が多く、あれはダメ、これもダメと言われるのは、かなり堪えたようです。それからせっかく丹精込めて野菜を作っても、自分の孫たちに食べさせられないのも辛かったようでした。もちろん小さいお子さんは食べちゃいけない。だから同居していても、食卓が分かれるんです。これは今でも続いています。野菜を作って孫に食べてもらうのが、このあたりのお年寄りの生き甲斐だったのに、夢も希望もないような状況になってしまいました。
 そんな中でたまたま、福島大学の小山先生が企画されているマルシェ(青空市)のお誘いを受けて行ってみたところ、そこに出店していた二本松市の「東和ゆうきの里」という直売所の話を聞くことができました。
 2011年の10月のことでしたが、「東和ゆうきの里」は既に食品放射能の検査を行っていて、野菜に検査済みの元気シールを貼り、自主検査をやっていることをアピールしながら販売していました。小山先生はマルシェでも野菜の放射能検査をして、お客さんに説明しながら販売していました。
 そこで驚いたのは、東和さんの野菜が売れること。また小山先生が検査していた他の直売所の野菜も、きちんと情報があればお客さんは買っていったんです。
 それで、ぜひ「もりもり」でも自主検査をやりたいと思い、支援してくれるところを農林事務所に相談したところ、公的機関にはないことがわかり、福島支援に取り組むNGOの調整をしていた国際協力NGOセンターの竹内さんをご紹介いただいき、竹内さんからアーユスを紹介していただきました。
 それで、枝木さんと井上さんがお越しくださり、支援していただけることになりました。ただ、そのとき検査機械の注文が取扱店に殺到して在庫がなかったんです。約6ヶ月待つことになりましたが、心待ちにしていましたね。
 月舘総合支所には、先に検査機械が入ったのですが、自家消費用の野菜の検査が目的だったために、「もりもり」は使えませんでした。農家さんは、自分が作ったものが販売できるのかできないのかわからないので、かなり心配だったようです。

規制するのではなく、元気づける。

アーユスが協力した農産物の放射線量を計る機器。茂田前理事長も訪問しました。

アーユスが協力した農産物の放射線量を計る機器。茂田前理事長も訪問しました。

千葉 うちは県から販売していいですよといわれたものだけ販売して、それ以外のものは自粛していました。ですから私が震災後の半年以上やっていたのは、「ダメ、ダメ、ダメ」と言うことだけ。これは県が販売していいと言っていないのでダメですと。じゃあ、何を作って販売したらいいのと聞かれても、私には分からない。
 東和さんは、売るのは直売所が責任を持つからと、とにかく作らせたそうです。だから東和の農家さんは、震災前と変わらずにみんな元気に栽培をしていました。そんな話を聞いて、うちの農家さんにはダメとしか言ってこなかった私は、非常に反省をしました。東和さんに、「まずは農家さんを元気にしないとだめじゃない」と言われて、ああそうだな、農家さんのために一緒に直売所をやっているんだから、元気になるようお手伝いをしないといけなかったんだと気づかされました。この直売所は、もともとこの辺の農家さんの生き甲斐対策のためにできたところです。だから、私がやっていたことは本末転倒でした。そんなこともあり、是が非でも自主検査ができる環境を作りたくて、支援のお願いをしました。

販売する野菜には、全て検査済みシールを貼りました。

販売する野菜には、全て検査済みシールを貼りました。

 いまこうやって自主検査ができるようになり、農家さんは一生懸命に野菜を作っています。今年はマルシェにも7月と10月に参加しました。既に検査を始めていましたから、安心して販売できたし、10月の時は、うらやましかった東和さんの検査済みシールをうちでも作って全商品に貼って売りました。
 東京国際フォーラムでも県主催のイベントがあって、今年の3月に行ってきました。そこで一番収穫だったのは、福島の他の地域のいろいろな方とお話ができたこと。思いが一緒なんです。ここは震災後も栽培や販売ができますが、同じ被災地でもお隣の飯舘村は戻ることさえできません。それでも、避難先でどぶろくをつくってはいろいろなところのイベントに出かけて販売している佐々木さんという方がいて、彼ともそこで出会ったんです。ここで5月に開催したイベントに来て頂いて、どぶろくを販売してもらいました。
 そんななかで本当にありがたいと思っているのは、松戸の天真寺さん。お寺のイベントで、少量ですが継続して野菜を販売してくださっています。大きい花火をどんと1回あげられるよりは、無理しないで続けていただけるのが一番嬉しいんです。

終わらない震災。
金澤 これまで野菜からはほとんど放射能数値が出ませんが、原木きのこはダメです。びっくりするくらい出ます。ただし、菌床栽培のおがくずを固めたところに植えたものは大丈夫です。
 柿に関しては、生柿は出せますが、あんぽ柿は出せずにいます。
 「もりもり」での検査結果はホームページに載せて、シールについているQRコードから見られるようにしています。全部検査しているんだし、経費を考えると貼らなくてもいいだろうという意見もあったのですが、私たちとしては情報を公開していることをはっきり示したいので、敢えてシールを貼っています。
 併設している宿泊施設の昨年度の利用者は、22年度の7割くらいでしたが、今年は9割くらいまでは戻っています。「もりもり」は、今年と去年とであまり変わらないです。以前の5割くらい。子ども対象の体験型学習への参加者が減っています。また、直売所の人気商品だった、山菜やキノコ、特産の花わさびやあんぽ柿などが全部販売出来ないので売り上げは落ちています。
千葉 春先に山菜から始まって花わさびがあり、タケノコがあり、そしてわらびが夏野菜までの主流商品。秋は地物のキノコでした。
 あんぽ柿もそうですが、これから放射線に汚染されていないものを作っていくためには、畑の除染をしないといけません。植えるものは新しいもの、汚染されていないものを植えないといけないんです。
 柿の苗木は買ってきて植えるんですが、福島県産ではダメです。去年は高圧洗浄機を使って、木の除染もしました。それにもかかわらず今年も線量が高めに出てしまった。若い人はこれから時間があるからやれるけど、お年寄りは無理です。新しい苗木をもってきて植えて採れるようになるまで、6年、7年はかかる。「来年、今年と同じように野菜を作れるかわかんない」って言っているお年寄りですから難しいですね。だからどうなるかわかりません。
 あんぽ柿って、すだれのように軒先に下げるんです。風物詩です。そういう風景もなくなる。そうなると技術的なものも伝承されなくなってしまう。非常に残念なことです。私たちに言わせると、震災は終わっていません。まだまだ続いていて、今後も続くことだと思っています。

*機関誌「ayus Vol104」2013年2月発行掲載