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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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スタッフ雑記帳

スタッフ雑記帳2015/04/15

2015春合宿 イスラームについて学ぶ


 2015年4月13日から14日にかけて、京都市下京区にある浄土宗・龍岸寺で毎年恒例のアーユス春合宿が行われました。今回のテーマは「イスラームを知る・考える・つながる」。シリアとイラクにまたがる地域に勢力を広げる「イスラーム=カリフ国」(IS)が国際社会の中で大きなインパクトを与えていますが、そもそもイスラームとは何かを知り、イスラームの宗教性・社会・文化、人々の暮らしに与えている影響等について理解を深め、イスラームとの関係性について考えてみるという目的で行われました。このように、イスラームについての学びを深めるとともに、様々な背景を持った参加者が交流しながら議論を交わすなど、密度の濃い2日間になったことと思います。参加者は関係者を含めてのべ47人と過去最高を記録。初めてアーユスの合宿に参加する方も多く、仏教寺院でイスラームについて学ぶというアーユスならではのユニークな試みを実感する機会になったのではないでしょうか。

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 始めにイスラームに関する基礎知識について、ご自身がイスラム教徒で、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科に在籍する山本直輝さんを講師に、イスラームの起源や現在に至るまでの変遷、イスラームの教えについて分かりやすく解説していただきました。ムスリム(イスラム教徒)の人口は世界で10億人を超えていて(正確な数字は分からないそうですが)急速に拡大を続ける一方、世界で最も嫌悪される宗教でもあるとのこと。その背景には、「女性に対する抑圧」「原理主義によるテロ」「暴力の肯定」などの多くの誤解から生じているとの指摘がなされました。ムスリムになるためには、2人のムスリムの前で「アッラーの他に神はなし」「ムハンマドはその使徒である(ムハンマドのイスラームを実践する)」と唱えればいいとのこと。ムスリムは、生活の全てにおいて神に従って生きることを前提として、預言者ムハンマドが神から授かった聖典「クルアーン(コーラン)」と、ムハンマドの言行録「ハディース」を指針に日々の生活が営まれています。また、ジハード(日本語で「聖戦」と訳される)は、「内面のジハード」「社会的ジハード」「剣のジハード」の3つに分けられ、「内面」はムスリムとしての自分自身を見つめ直すこと、「社会的」は社会的善行を積んで公正を訴えること、「剣」は「共同体の防衛なしには信仰の実践、社会秩序を含めた個々人の安全は訪れない」との前提で、異教徒による攻撃からイスラームを守るための忍耐と存亡をかけた闘いを行うことを意味し、この「剣のジハード」がごく一部の人に曲解されて過激な原理主義勢力のテロを肯定する根拠となっているようです。さらに、ムスリムにとっては宗教的な権威であり政治的指導者でもある「カリフ」の存在が重要であり、このカリフによって全世界のムスリムは宗教上の同胞意識と連帯感、互助の精神性が育まれてきたものの、1924年にトルコのオスマン朝がカリフ制を廃止してからそのような精神性や一体感が失われ、欧州の植民地支配から解放された後に次々と脱イスラームの世俗国家が建設され、今日に至る中東地域の混乱の遠因になっていることが指摘されました。そして、イスラーム復興運動のシンボルであるカリフ制復活がISによって一方的に唱えられ「実践」されていることが混乱に拍車をかける結果となっているそうです。

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 続いて、日本国際ボランティアセンター(JVC)の池田未樹さんから「イラクの状況とIS」と題して、前日にイラク出張から戻ったばかりという中で、滞在先だったスレイマニアの街の様子や、現地で国内避難民への食糧支援などを行っているJVCのパートナー団体である現地NGOのINSANスタッフから聞いた話などを紹介していただきました。スレイマニアはクルド人治安部隊によってISの侵攻が食い止められていて治安は安定していたものの、街全体で緊張感が漂っていたとのこと。イラク全体で200万人とも言われる国内避難民に対して、国際社会からの支援は十分ではなく、INSANをはじめとする現地NGOが行っている継続的な支援によって国内避難民の人たちが何とか持ちこたえられている現状が報告されました。また池田さんは、INSANのスタッフが来日した際に富山県で名産のチューリップの球根をプレゼントしたそうですが、それが今回の出張でINSANスタッフの家の庭で大切に育てられていたのを見て感動したというエピソードを披露してくださいました。

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 2日目は、関西在住のムスリムによる文化講座と題して、山本直輝さんのパートナーであるインドネシア人のNailil Munaさんから、中東諸国とは違うインドネシアのムスリム社会についてお話いただきました。ムスリムとしての普段の生活や習慣、スカーフの使い方やハラル食品などについて写真を交えながらお話いただきました。途中の休憩ではセージ入りの紅茶やトルコで購入したアラブのお菓子(バグラヴァ)が振る舞われたり、最後にはサロンやスカーフの巻き方ワークショップと題して、Munaさんや山本さんに教わりながら参加者が見よう見まねでスカーフやサロンを巻いてみるなど、リラックスした雰囲気の中で楽しみながらイスラームの文化に触れることとなりました。

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 限られた時間でしたが、個人的にも2日間を通してイスラームに関する理解が深まりました。イスラームの教えについて共感を覚える人が世界中で増えていますが、その要因が何となく分かるような気がします。イスラームは戒律が多くて大変そうなイメージを抱きやすいのですが、生まれたときからそれが当たり前であれば特に苦労することもなく、むしろ日本の方が細かな規則や社会的なルールに厳格で、息苦しさを感じることが多いのかもしれません。また、経済的に貧しくとも施しを受ける・与えるのが当然とされていて自ら進んで善行を行う、といったように助け合いの精神が強く、異教徒に対する排他性も本来のイスラームであればそれほどでもないようです。まだまだ分からないことが多いのですが、今回の合宿を契機にもっとイスラームについて勉強してみたいと思うようになりました。

 今回の合宿は、イスラームのことについて知りたい、学びたいというアーユスの会員さんの声から実現した企画でした。今後もイスラームの宗教性や仏教の考え方との違い、イスラームが社会に与える影響等について学びつつ、中東との関わりについて考えていきたいと思っています。(D)

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