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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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その他の地域2020/07/14

【街の灯トーク#3】新型コロナで生活困窮に陥る移民・難民⑤


信頼し合い、連帯し、格差や差別のない社会へ

井上 本当に切実なものを抱えておられる方が多いですね。一人でも多くの日本人に知っていただいて、 次のアクションにつながればと思います。

 ではここで、ご質問やコメントを紹介したいと思います。
 まず、「政府が柔軟な対応をとっている、とのことでしたが、移住連の政策提言が改善につながった事例があれば聞かせてください」とのことです。

山岸 制度で足りていないと思うところに働きかけをして枠組みを広げる、限られた在留資格だったところを、もっと幅の広い人たちに適用できるという方針を確認するということは最もよくできた点だと思います。出入国関係では、3月の終わりから4月にかけて外に出ている外国人が入国できなくなったのですが、日本に定住しているけれど、たまたま一時帰国などで海外にいた人たちが日本に入国できなくなってしまった時に、特別な事情ということで入国できるようにしてもらいました。
 そういう個別の事例を通じて、その人だけではない柔軟な運用をつくりだすし、似た状況に置かれた人たちが同じく柔軟な適用を受けられるように変えていく取り組みを行なってきました。
 移住連はこの4月と5月はいつも以上に休みがなく、すべてのスタッフがフルに活動していました。いろいろな事例があげられてきて、毎週領域別に担当者が問題を整理して要請を行なっていたんです。ずいぶんいろんなことが変えられたと思います。

井上 それも常日頃から、政府関係者や官庁との交渉や対話があったからこそでしょうか。

山岸 そうかもしれませんね。

井上 次は事前にいただいた質問で、「ベトナム人技能実習生が非常に困窮していると移住連の代表である鳥井さんがラジオでお話しされていたことを詳しく知りたい」ということです。

山岸 ちょうど先週6月9日に、ベトナム人技能実習生ホットラインというのをやりました。カトリック教会で日曜日のミサをすると、例えば四谷のイグナシオ教会などでは一回に1000人くらいの人が集まりますけど、全国各地で何百人という単位のベトナム人も集まってきます。彼らは「技能実習生」、「留学生」、「技術・人文知識・国際業務」で来ている人が多いんですね。3月終わりくらいから、そうしたベトナム人からの生活困窮の訴えが神父さんたちに一斉に届くようになりました。ベトナムの人はお米をすごく食べるけれど、お米が買えない、食べられない、どうしたらいいか、助けてほしいというような訴えです。それで4月のはじめに食糧支援のプロジェクトを始めました。四千世帯くらいにお米やベトナムラーメン、マスクなどのパッケージを配送する活動をしないといけないほど、たくさんの人が助けを求めてきていたんです。
 よく聞いてみると、実習生なのに収入が減ってしまっているんですね。留学生もアルバイトがなくなって収入がなくなったとか。なのでこれから技能実習の中小規模の事業所で、事業が継続できなくなるところもでてくると解雇につながってしまうかもしれません。

井上 今も困窮していらっしゃる方はいるけれど、外国人を雇用している中小企業が今後大変になることで大きな影響が出てきてしまうわけですね。

山岸 これから労働問題はすごく出てくると思います。

井上 そうですよね。あと、「仮放免の方が特別定額給付金を受給することはできるのか」という質問も来ています。

山岸 仮放免の方の生活保障って、私たちもすごく重要だと思っています。その方々は、帰国しようとしても帰国できない状態にいる人たち。入管も放免にして収容しないのであれば、生活保障をしてほしいと思いますがそういうものはなく、定額給付金も対象外になっているんです。やっぱり、民間の私たちみたいなところが支援していかないととても生活できないですよね。

井上 「各国大使館から自国市民への特別援助をする例はあるのですか」というご質問。

山岸 各国大使館もお金の支援は難しいと思います。求める声は出ているでしょうが、逆に民間のところに「帰国困難の人がいるからシェルターを提供していただけないでしょうか」と移住連に加盟している団体で住居支援ができそうなところに問い合わせがきたりもしていました。

井上 「外国籍の方でコロナに感染して治療が必要な方は、どんな治療が受けられるのでしょう」というご質問です。

山岸 コロナに関わる検査や、その部分については無料でということは国会答弁でも出ていますが、その前後の治療は保険がないのでお金がかかります。普段から非正規滞在の人たちが無料に近いかたちで医療が受けられる診療機関があるので、そういうところを紹介しながらやっています。

井上 これも事前にいただいていたもので、山岸さんご自身のことについてお聞きしたいそうです。「どのようなご経験があって今の活動に関わっておられるのか、どんなことがモチベーションとなっているのか」という質問です。

山岸 初めて興味をもったのは、中学生のころにアフリカの難民キャンプの人たちが骨と皮だけの日本では見られないような状況でテレビに映っていて、それを見たときに「なんでこんなことが世の中にあるんだろう」と不条理というか、「どうして?」という気持ちが起こって、多分そういうところが一番の根っこにあります。
 大学時代にアジアに行くなかで、フィリピンに一か月行っているときに──日本の学生は一か月もフィリピンに滞在できるんですよね、少しアルバイトすれば──滞在先で会ったフィリピンの同世代の人たちに、「わたしたちは首都のマニラにすら人生で一回行くかどうかもわからない、全然違うよね」と言われたりとか。そういう格差や、生まれた国が違うことでこんなふうになっていることはなぜなんだろうと思ったこと。全ての人が同じように、尊厳とか人権とか自由とかが同じようにあって選択肢もたくさんある、そうあるべきだと、それが自然に起こった感情でした。そういうのもあってですね、そこから今の活動に至っているのだと思います。
 途中ではね、もっといろいろあって、自分が子育てのすごく大変だった時期にフィリピンの女性支援の活動をしていて、シングルマザーの女性たちがたくさん子どもを育てているなかで、自分もいっしょに助けられた経験もありました。自分が日本だけじゃない価値観のなかで幸せだった、良かった、というような経験もしていて。それがずっと続けてこられているモチベーションでもあります。
 だからやっぱり、格差とか不平等とかに関してすごくおかしいというのは元々あるけれど、それだけじゃなくて、自分が日本的な中だけで生きていないことによる豊かさを経験してきたことで、続けられてきているんです。

井上 なるほど。では最後に、本日参加されている方にメッセージをお願いします。基金もニーズがまだまだありそうですね。

山岸 はい、最後にぜひ皆さんにお願いしたいです。毎週自転車操業なんです。幸運なことに、ちゃんと申請があった分だけのお金が何とか集まっているんですけれど、本当にギリギリなんです。まだ支援しておられない方がいらっしゃったら、支援していただけたらすごくありがたいです。ホームページをご覧になっていただければと思います。先ほどは紹介しきれなかったけれど、支援を受けた方の声、ビデオメッセージを寄せて下さった方もいます。
 このコロナって、全世界的に経済だけじゃなくて価値観の変動も起こっていると思うんです。国境封鎖して、自国第一主義とか外国人排斥とかが高まったり、差別が起こったりもしている。その一方で、すべての人たちが助け合って、協力しあってコロナを乗り切ろうっていう価値観も出てきていると思うんです。NGO活動はまさにそういうところを進めていると思うんです。私たちはこれを何とか、みんなが信頼しあい、連帯して、ともに格差や差別のない社会をつくることのきっかけにしたいと思いますし、そうやって乗り越えていけたらと思います。今日はありがとうございました。

井上 ほんとうに情報がいっぱいつまっていますので、ぜひご覧になっていただきたいですね。今日は貴重なお話をいただきまして、本当にありがとうございました。

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