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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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その他の地域2015/12/02

原発で成り立つ地域社会の現状を知り、平和の尊さを学ぶ


 2015年11月17日から19日まで、アーユス国内スタディツアーで鹿児島県を訪問しました。今回のツアーは、今年8月に1号機が再稼働した九州電力川内原子力発電所を見学して現状を理解すると共に、原発の反対運動を展開する地元の人たちとの交流を通じて、原発をめぐる様々な問題について理解を深めること。さらに、原発によって成り立つ地域社会の現実を知り、アーユスがめざす原発に頼らない持続可能な社会のあり方を改めて考えてみることが主な目的でした。また、太平洋戦争末期に特攻の出撃基地になった知覧の歴史を知り、特攻に向かった若者たちが遺したものを通して、平和の尊さと8月に成立した安保関連法の不条理について考える機会にもなりました。2泊3日の日程では、ガイド役として同行いただいたFoE Japanスタッフの吉田明子さんのご紹介で原発反対運動を行っている様々な方とお会いすることとなり、改めて原発が地域で様々な格差を広げ、周辺住民の思いを無視して再稼働が着々と進められている実情を理解することができました。

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 はじめに川内原発展示館を訪問しました。ちょうどこの日は2号機が本格稼働を始めた日ということで、午前中は正門前で抗議行動が行われたとのこと。展示館では、いまだに原発が他のエネルギー源と比べてコストが安く、しかも安定的に供給できるメリットが力説され、しかも最大限の安全対策が講じられていることが強調されていました。チェルノブイリ型の原発と違って川内原発で採用されている加圧水型軽水炉は安全で同じようなことは起こりえないこと、自然界にも放射線はあって原発から日常的に発生している放射線は微々たる量であること、放射線は生活の様々な用途に使われていて人類はその恩恵も受けていること、などといった展示ばかりで、特に3.11以前であれば、その説明を真に受けてしまう人は多かっただろうと想像されました。九州電力の方からも直接説明を受けましたが、予想通りの内容で、少し踏み込んだ質問も想定通りに上手く受け流されました。

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 続いて、原発反対運動の最前線となっている監視小屋テントを訪問。原発に反対する地元のお母さんたちが集まって結成された「川内つゆくさの会」の鳥原良子さんと森永明子さんから反対運動を始めた経緯や今年8月の1号機再稼働の前後の動きなどを伺うことができました。はじめは原発に反対していた人がいつの間にか賛成派になるなど地域を分断する露骨なやり方が行われ、地元の振興に役立つからと原発が誘致されたにも関わらず、地元の商店街はむしろシャッター通りになってしまっている現状を聞きました。改めて原発はそれに関わる人には恩恵が行くものの、それ以外の人はとっては安全な生活を脅かす存在でしかなく、その弊害がますます表れていることを実感することとなりました。

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 次に、原発がある薩摩川内市に隣接するいちき串木野市で活動を続ける「避難計画を考える緊急署名の会」の事務所を訪問。2014年6月に、実効性のある避難計画が策定されていない以上、運転を再開すべきでないとして、全ての住民を対象とした戸別訪問署名を実施した結果、全人口の過半数を超える16000人分の署名が集まりました。このように原発に反対する住民の意思が明確に示されたものの、再稼働は強行されて現在に至っています。会では現在行政の避難計画の不備を指摘しつつ、自主的な避難訓練の準備を進めているとのこと。なお、この会には真宗大谷派の藤島正道さんというお坊さんも参加しており、ご門徒さんに声をかけられて活動に加わった経緯について伺いました。その夜には地元のガス会社に勤めながら日置市を拠点に小水力発電の普及に取り組む及川斉志さんと食事を共にして、来年4月の電力自由化に先駆けて地域でできることや、小水力発電がいかに環境を破壊せずに地域で循環させるエネルギーとして最適であるかというお話などを聞くことができました。

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  翌日には、鹿児島市の繁華街である天文館を中心に原発反対の活動に取り組む若者グループ「天文館アトムズ」の鮫島亮二さんをはじめ関係者の皆さんにお会いしました。彼らがユニークなのは、既存の反原発の集会に飽きたらず、もっと一般市民が気軽に原発について考えてもらおうと、今年8月の暑い最中に「カレーフェスティバル」を企画して実施したこと。カレー屋のオーナーの方が、例えばラーメン屋さんよりもこうした活動により理解を示してくれるだろう、カレー好きの人であれば原発反対の気持ちが通じるのでは、ということで声をかけたそうですが、最終的に7店舗が結集して1500人ぐらいが参加し1000食以上出たそうです。鹿児島の反原発のイベントでこれほどの人が集まることはなかったそうで、反響の大きさに驚いたと語ってくれました。原発賛成の声は非常に少なく、反対の人は6割を超えるものの、なかなか反対の声を上げられない。そういう人たちの為にも、これからもこのように来るだけで意思表示ができるような場を作っていきたいと抱負を伺いました。

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 最終日には、それまでにお会いした人たちから必ずお名前が挙がった、南方新社の向原祥隆さんにお会いしました。まさに鹿児島における原発反対運動のキーパーソンと言える人です。向原さんはまず原発は日常的に高いレベルの放射能を出しており、ドイツでは原発から10キロ圏内に住む子どもの白血病発症がそれ以外の地域より10倍多いとの研究結果が示されていることを取り上げ、薩摩川内市でも、原発が稼働し始めた時期に子どもだった34歳から45歳までの層の医療費が他地域の平均よりも2.5倍になっている事実を教えてくれました。また、原発からの温排水によって沿岸漁業に深刻な影響が出ている可能性があることにも言及されました。少なくとも原発から2キロ以内の範囲で一度以上の海水温の上昇が確認されるとのこと。それだけでもみても原発は非論理的な発電方法であると強調されました。また鹿児島県知事選に出馬し、短期間で1千万円がカンパなどで集まったものの、自民党の強い地盤に阻まれて落選した時のエピソードなどを伺いました。

 このツアーでは、原発関係以外にも知覧特攻平和記念館を訪問しました。祖国のために特攻で命を落とさざるを得なかった若者たちの目に、危険な原発に依存する形で物質的な豊かさを享受してきた今の日本の姿がどのように映っているのでしょうか。特攻と原発。この2つは別のことのように思える一方、何か根元的に相通じるところがあるように感じました。それは、どちらも国の無謀な政策に翻弄され、一方は声を上げたくても上げられない将来ある若者たちの生命が奪われ、他方はその存在だけで今も地域住民の生活を脅かし続けているという事実。ここには決して忘れてはいけない不条理な過去と現在が存在します。私たちは、これらの事実からもっと多くのことを学び、正面から向き合っていく必要があるように感じます。